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蚤の章…17
「俺がミツさんを舐めるわけない。ミツさんに逆らえる人間がこの世にいたら、会ってみたい」
「ほんと、口だけいっぱしに成長して。昔の可愛い夏雄ちゃんが懐かしいわ。タマジがここにいないなら、長居は無用。家の方にお邪魔して、タマジを頂いて行くわ。タマジに少しでも愛情があるなら、タマジの尻尾と大事な場所に毛が生えそろった頃に、一度会わせてあげるわ。一度、ね」
一度を強調して、ミツは席を立った。
「ミツさん、ちょっ、待てよ!」
立ち上がったミツは、歩いて出て行ったのではなく、立ったその場からシュッと消えた。
人間にはできない芸当を見せつけ、ミツは夏雄の自宅へと直接移動したのだ。
普段人間として暮らしているミツが化け猫の力を見せるようなことは滅多にない。
移動は普通に足を使うし、公共の乗り物だって使う。
「やべぇ、ミツさん本気だ〜」
カウンターの床に、夏雄が座り込む。妖力を見せつけるほど、夏雄に立腹らしい。
今慌てて自宅に戻っても、すでに蛻の殻だろう。
一度会わせると言っていたので、今生の別れってことはないだろうが、だがこのままだとタマジとの生活に終わりを告げることになる。
「ちょっとお仕置きしただけじゃん…そんなに酷いことか?」
蚤のジイさんにでも相談するか、と思ったが、宿主にしているタマジがミツのところだとすると蚤のジイさんもミツと一緒だ。
連絡の取りようがない。
ミツに関しては祖父に相談するのが一番だが、ミツの目を盗んであの家から呼び出すのは難しい。
「仕方ない、頼りないが…、仲介を頼んでみるか」
独り言をつぶやくと、夏雄は立ち上がった。 客のいない店を閉めると、夏雄はとある場所へと向かった。
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