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   幻蟲奇譚
 
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蚤の章…15


「ギブ、――お願いっ、いやああ〜〜〜ぁ」 

 夏雄が留めを刺すように、タマジの尾をグイッと引っ張った。
 感度のよい尻尾の神経は脊髄へと繋がっている。
 ビリビリッと人間には決して分らない激しい刺激が尻尾の付け根から脳天に向かって駆け上った。
 そして、ポンという音と共にタマジの身体から蚤のジイさんが飛ばされ、精がドクドクと噴き出した。

「こら、この年寄りを殺す気か?」
 
 飛ばされたジイさんが、床に着地した。

「ジイサン、だらしないぜ。蓋が台無しだ。俺の楽しみも台無しだ。あ〜あ」
「タマタマの水圧に負けてしもうたわい」
 
 面目ないと、ジイさんが前足でスリスリと手を合わせた。

「…なつ〜おぉ〜、」
 
 堰き止められたモノを放出すると、苦しさと痛みは消え、解放感と気怠く甘ったるい快感がタマジに残った。
 まだ身体の中には夏雄の猛々しい分身が収まっている。
 目の縁を真っ赤に染め、欲情した目で夏雄を誘ってきた。

「ギブだったよな。無理だって言ってたし、終了するか」
「いや〜だっ、もっと、…夏雄も、…まだ大きい、な?」
 
 ギュッとタマジが自分の中の夏雄を締め付ける。

「ぁあぅ、いいぃ、」
「おいおい、それじゃ、オナニーだろ」
「夏雄の熱くて太いので、突き上げて〜。ドクドクって、ミルク注いで〜」
 
 化け猫の本能が言わせるのか、欲情の針が振り切れたタマジは、欲しいモノを得るためには恥も外聞もない。
 身体が欲する快楽を求めるだけの獣だ。

「そのAV並の恥ずかしい言葉、正気に戻っても忘れるなよ」

 

 正気に戻った頃には、タマジは疲労困憊で、正気なのに寝たきりの病人状態だった。

「言っとくけどな、突き上げろだのミルク注げだの要求したのは、お前だからな。俺だって、腰イテェんだから。もう、カスも出やしね〜よ。しばらくできね〜かもな」
 
 口を開くのも億劫なのか、タマジが尻尾だけで返事をする。
 ポンポンポンと三回ベッドの上をたたいた。【イヤダ】という意味だ。
 ちなみに、二度の時は【イイ】という肯定の意味だ。
 モールス信号みたいで便利ではあるが、気分屋のタマジは時々逆の意味でも使う。
 三回が【イエス】の肯定で、二回が【ノウ】の否定だ。
 今回は間違いなく否定の【イヤダ】だ。
 夏雄との交わりを断たれることは、タマジには耐えられない。
 人間のなりをしていても、元が猫だ。
 一人でいたい時に構われるのは嫌だが、自分が構って欲しい時に相手にされないのは、寂しくて死にそうになる。
 特に欲情しているときに相手にされなかったら、心だけでなく体がどんなに苦しいか。
 それこそ、理性などぶっ飛ぶぐらい、夏雄が欲しくなる。

「嫌でも、勃たないと無理だろうが。チッタ〜反省しろ、このエロ猫。程々って言葉を学んでおけ」
 
 尻尾ももう上がらないようで、タマジはトロンとした目で、自分の身体を拭いている夏雄を追う。

(大事な尻尾刈ったくせに…あそこも刈ったくせに…偉そうに言うな変態男…。尻尾のことは、ミツ様に告げ口してやるからな…あぁ、でも、今日のは凄かった…。そうだ、ジイさんのことも告げ口しようっと)
 
 タマジの身体は動かなかったが、反論はちゃんとしていた――頭の中だけで。

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