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   幻蟲奇譚
 
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蚤の章…12


「な、」
「俺だけなら、ココがスベスベでも問題ないはずだ」
 
 タマジの下腹に夏雄の手が伸びる。
 ビクッとタマジの腰が撓った。

「大有りだ!」

 ふわっとした毛の中を夏雄の長い指が遊び始めた。

「つまり、俺以外の相手がいるから、スベスベに出来ないってことか?」
「そうじゃないっ、……そんな姿、子どもみたいで、恥ずかしい。夏雄に見られるのが恥ずかしいんだ」
 
 ネコ系のくせに猿みたい顔を赤くしている様が、何とも夏雄のSッ気をそそる。
 夏雄がバリカンを一旦端に置く。
 毛の中を泳ぐ指はそのままに、タマジに覆い被さった。

「タマジの恥ずかしい姿、見せてくれよ〜。な、いいだろ?」
 
 耳元に、息を吹きかけながら甘い声色で囁いた。

「…イヤだ…、子どもじゃない…」
「そりゃそうだ。子どもがこんな立派なモノ、持ってるはずがない」
 
 樹海を遊んでいた指が、芯を持った根元に移った。
 軽く根元を握ると、その指がゆっくりと上部に移動した。

「子どもじゃないから、外に誰かいないかと心配なんだろ? 他人もこんな風に触っているかと思うと、虫酸が走る」
「ヒャッ」
 
 先端の切込みに爪を立てられ、タマジから小さな悲鳴が漏れた。

「他の誰かにもこんなことさせてるのかと、疑心暗鬼になるだろ?」
「ぁあう」
 
 爪の先をグリグリと蜜口に押し当てられ、タマジの身体が仰け反った。

「…誰にも、…させてないッ、――知ってるくせに…」
「知らない。浮気してないなら、刈って下さいと言え。浮気してるなら拒否すればいい。どっちだ」
「…狡い…酷い…セコイ」
「日本語間違ってるぞ、エロ猫め。セコくはない。セコイ男だったら、汚された絨毯のクリーニング代をとっくに請求している。さあ、どっちなんだ?」
 
 タマジの中心から離れた手が、再びバリカンを握る。

「…刈って下さい。しか、選択肢がない…夏雄のバカヤローッ」
「一言余分だが、いいだろう」
 
 スイッチの入ったバリカンが、樹海の中を泳ぎ始めるとスイスイと樹木をなぎ倒していく。

「…あん、…や、っ、だめ、」
「エロい声だしちゃって、何が駄目なんだ」
「ブルブルって、…振動が、」 
「なに感じちゃってるの。下も剃るから、動くなエロ猫」
「夏雄が悪いんだっ、…さっき爪で弄ったから、…だから、」
「でた、タマジの得意技、ウソ八百。その前からおっ勃ててたっていうの。手が塞がってるんだから、触ってやれないぜ」
「…俺の手を解け! 自分でする」
「却下。しょうがないな。ジイさんの世話になるか」
 
 祖父のことではない。
 祖父の繁雄のことはじいちゃんと呼んでいる。

「…お前、…それは、禁じ手だ」
「別に禁止されてはいないさ。ジイさんもたまには遊びたいだろう? な、ジイさん、どうせのぞき見しているのは分ってるんだから、出て来い」


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