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   幻蟲奇譚
 
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蚤の章…11


 「タマジ程度の祟りに俺が怯むとでも? あ〜あ、舐められたものだ」
 
 ミツほどの化け猫なら妖力も凄まじいだろうが、タマジなどまだ『猫又になりかけています』程度で、化け猫のランクでいうなら下位だ。
 残念ながら、特別の印をその身体に授かった夏雄に、タマジの妖力は効かないのだ。 
 もちろん、タマジもそのことは重々承知なのだが、思い付く売り言葉が「祟り」しかなかった。
 バリカンの刃先が毛の奥に沈んだ。そして、尻尾の上を滑らかに進み始めると、

グ、ギャア――――… !
 
 断末魔のような叫びがタマジからあがった。
 その音波で古い家屋の窓ガラスがガタガタと音を刻み始めた。

「尻尾が性感帯だからってよ、嫌がりながら、ソレはないだろ? あ、その叫びは、悦びの喘ぎ声?」
 
 夏雄が足の爪先でタマジの中心を小突いた。
 一番弱い場所を強く掴まれバリカンの震動を与えられれば、勝手に反応してしまうのは致し方ない。

「大袈裟に叫ぶから、本当に嫌かと思えば、さすがエロ猫。悪いな、俺の手はこっちで塞がっているから自分で処理してくれ」
で、で、で、出来るわけ、無いだろ!
「そりゃそうだ。手が使えないから無理か。じゃあ、放置プレイだ」
 
 放置プレイと言いながら、夏雄は中心やらその下の双珠を悪戯することを忘れなかった。

…くそ、…う、この野郎、覚えてろ… あ、」
「いい感じだ。五分刈りってとこか」
 
 タマジの抵抗を無視し、綺麗に刈られた尻尾の手触りは、初めて坊主にされた子どもの頭髪のようにスベスベだった。

「拗ねてないで、見てみろ」
 
 尻尾を刈られるだけでも、化け猫のプライドを粉々にされる程の精神的な拷問だったのに、それに加え中心を中途半端に悪戯され、拗ねるなっていう方が無理だろう。

「…」
 
 プイと顔を背け、夏雄を見ようともしない。

「ちゃんと模様も残ってるぞ」
 
 夏雄がタマジの尻尾をブンブンと振った。

「…」
 
 無言の抵抗らしい。

「刈上げ尻尾に拗ねてるのか、もっとソレ触って欲しくて拗ねてるのか、ハッキリしろよ」
「…わかってる癖に…」
「エロ猫め。やはりコッチか」
 
 タマジの尻尾の先で、ツヤリと輝く先端部分を弾いた。

「ち、がーうッ」
「ま、どっちでもいいけど。可愛くしてもらったんだから、礼の一つでも言ったらどうだ」
「礼だと? こんなみっともない尻尾にされて、礼だと? こんな姿になったら、きっと爪弾きだ。化け猫界の恥曝しだ」
「みっともない? 俺以外に尻尾を見せる相手はいないはずだが? 誰に対してみっともないんだ?」
「…相手なんかいるわけ無いだろ!」
「信じないぞ。だから、拗ねてるんだ。その誰かの前に晒すのが恥ずかしいってことだろ。ミツさんだって、じいちゃんの前限定だったのに、タマジの分際で」
 
 本気でタマジに相手がいるとは思っていない。
 刈上げ尻尾のスベスベな手触りが気に入った夏雄は、更にもう一部分、刈上げたい衝動に駆られていた。
 揚げ足を取って、その口実を作っているに過ぎない。

「違う! 俺だって夏雄だけだ」
「じゃあ、それを証明しろ」
「…無茶言うなよ。いないモノをどうやって証明するんだよ」
「自分で証明出来ないなら、俺が手伝ってやる」
 
 夏雄が再びバリカンのスイッチを入れた。


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